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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)114号 判決

原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。

1 本件出願(分割出願)に関連するつぎの事実関係は、当事者間に争いがない(一の項において争いのない事実も、一部、便宜上併せて摘記する。)。

(一) 本件出願は、特願昭三七―三五三二八号(原出願)を分割したものであり、原出願の特許請求の範囲は左記のとおりであつた。

<1> 低分子量線状ポリエステルに遊離のジカルボン酸とグリコールを添加し、三ないし二〇の平均重合度を有するポリエステルが生成されるまで、前記ポリエステルの溶融温度より高い温度であるが、混合物からグリコールが留出する温度よりは低い温度で前記混合物を加熱、反応させることを特徴とする線状ポリエステルの製法。

<2> 低分子量線状ポリエステルに遊離のジカルボン酸とグリコールを一対一・〇五ないし一対一・三の割合で添加し、三ないし二〇の平均重合度を有するポリエステルが生成されるまで、前記ポリエステルの溶融温度より高い温度であるが、混合物からグリコールが留出する温度より低い温度で前記混合物を加熱、反応させることを特徴とする線状ポリエステルの製法。

(二) 原出願の出願公告(昭和四三年一〇月三日、特公昭四三―二二九九九号)後、それに対してされた特許異議の申立に対応して原出願を分割したのが本件出願であり、その時、原出願についてした手続補正により、原出願の特許請求の範囲は、左記のとおり訂正された。

「三より多く一〇までの平均重合度を有する線状ポリエステルに遊離のジカルボン酸とグリコールのモル比の値を<省略>以上<省略>より少な範囲いで添加し、三より多く一〇までの平均重合度を有するポリエステルが生成されるまで前記ポリエステルの溶融温度より高い温度であるが、混合物からグリコールが留出する温度よりは低い温度で前記混合物を加熱、反応させることを特徴とする三より多く一〇までの平均重合度を有する線状ポリエステルの製造法。」

本件出願(分割出願。昭和四四年六月四日)の特許請求の範囲は左記のとおりであつた。

「一〇より多く二五までの平均重合度を有する線状ポリエステルに遊離のジカルボン酸とグリコールをそのモル比の値が<省略>より大きく<省略>までの範囲で添加し、一〇より多く二五までの平均重合度を有するポリエステルが生成されるまで前記ポリエステルの溶融温度より高い温度であるが、混合物からグリコールが留出する温度よりは低い温度で前記混合物を加熱、反応させることを特徴とする一〇より多く二五までの平均重合度を有する線状ポリエステルの製造法。(なお、右平均重合度二五は、後に二〇と補正された結果、請求原因二の項に記載のとおりのものとなつた。)

(三) 他方、原出願については、昭和三八年八月九日拒絶査定がされ、審判を請求し、その請求は昭和三八年審判第五七五三号事件として審理されたが、昭和四三年一〇月三日出願公告がされ、その後、特許異議の申立があつて、昭和四四年六月四日前記手続補正をしたが、昭和四九年九月九日、特許庁は同補正が特許法第六四条第二項の規定に違反する(公告された明細書の特許請求の範囲に示された発明を実質的に変更するもの)として、これを却下する旨の決定をし、昭和四九年一一月一四日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、同審決の確定前である昭和五〇年四月一五日原出願は出願を取下げられて、その手続は終了した。

(四) そして、本件出願については、昭和四九年八月六日拒絶査定があり、審判請求をしてこの請求は昭和四九年審判第一〇六三二号事件として審理され、その手続中、特許請求の範囲のうちの「平均重合度」の二五とある箇所は二〇と補正されたが、昭和五一年五月二四日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その理由は、本願発明は特公昭四三―二二九九九号特許公報に記載された(特許請求の範囲第二項の発明(すなわち、原出願に係る第二項の発明)と同一の発明であるから、特許法第二九条第一項第三号の規定により特許を受けることができない、というものであつた。

2 原告は、本件出願は分割出願の時点においては分割出願の要件を満たしていたのであるから適法な分割出願であり、したがつて、その出願は原出願の時にしたものとみなされるべきであるのに拘らず、審決は、原出願の査定確定の時点を基準として分割要件の成否を判断しているから違法であると主張する。

よつて検討するに、特許法第四四条第一項は、「特許出願人は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定して、<1>原出願にもともと二以上の発明が包含されていること、<2>新たな出願の発明はこの二以上の発明の中の一つであることを要件としているのであるから、分割出願が適法なものであるためには(したがつて、同条第三項の規定により出願日の遡及が認められるためには)、右の二点における原出願と分割出願との関連性の検討を避けることはできない。

ところで、特許法は、出願公告をすべき旨の決定又は請求公告をすべき旨の決定謄本の送達後においても、一定の要件の下に手続の補正を許しており(同法第一七条第一項)、補正は事件が審査、審判又は再審に係属している限り可能であると共に(同条第一項)、適法な補正があるときには、出願当初から出願願書が補正された状態において提出されたものと認められる反面、当該補正が不適法なものとして却下され、その却下決定が確定した場合には、その補正は初めからなかつたもの、換言すれば、当該補正がない状態と同じになると解されるのである。

これを本件についてみるに、本件出願(分割出願)と同日の昭和四四年六月四日に原出願についてされた補正は、昭和四九年九月九日これを却下する旨の決定がされ、該決定は昭和五〇年四月一五日に確定したのであるから、原出願については右の補正が初めからなかつたもの、換言すれば、右の補正がない状態と同じになるのである。

そして、審決は、この前提のもとに、本件出願に係る発明が原出願の特許請求の範囲の第二項に記載されている発明と同一の発明であるから、特許法第四四条第一項に規定する分割出願の要件を満たしていないとしているのであつて、その判断は相当であつて、原告の主張は理由がない。

(一) 原告は、特許法第四四条には特段の規定は存しないから、分割出願の要件の成否はその分割出願の時点を基準にして判断すべきであると主張するけれども、既述のとおり、分割出願の要件の成否は原出願の内容とも関連するのであり、原出願の補正却下決定が確定するときは、その補正は初めからなかつたものとなるのであるから、右主張は採用できない。

(二) 原告は、分割出願後の原出願と分割出願との重複関係は特許法第三九条で処理されるべきであると主張するけれども、分割出願時における原出願の不適法性、したがつて、分割出願の要件の欠缺が後日に判明、確定したからといつて、そのような不適法な分割出願にも常に出願日の遡及を認めた上で特許法第三九条の規定を適用しなければならないとする合理的な根拠も、法の特別な規定も存しないから、原告の右主張は採用できない。

(三) 原告は、特許法第四四条には分割出願についての審査禁止期間を定める等の規定が設けられていないから、審決の判断は誤りであると主張するけれども、そのような規定がないからといつて、原出願の補正却下決定が確定した場合に当該補正が初めからなかつたことになることに変りはなく、この効果を否定すべき根拠とはしえないから、右主張は採用できない。

(四) 原告は、特許法第四〇条の規定を指摘して審決の判断は誤りであると主張するが、本件における原出願の補正は出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達後の補正であつて、右法第四〇条の規定する補正とは異なるし、また、特許法においては、出願中と特許後の手続の効果に差異を認めている場合もあるのであつて、分割出願の要件の有無についてはこの差異を認めてはならないとする根拠はないから、原告の右主張は採用できない。

3(一) 原告は、原出願の補正却下決定においては分割出願との重複を生じさせないようにする配慮がされていないから、被告が本件においてそれに基づく分割要件の不備を主張することは許されないと主張するけれども、補正却下の判断は当該補正の適否のみを当該補正そのものからすべきものであり、原告主張のように、分割出願との関係を考慮してその判断を左右さるべきものではないし、既述のとおり、原出願の補正却下決定が確定したときは当該補正は初めからなかつたものとなると解せられ、その結果が分割出願の要件の成否に影響を及ぼすことは避けられないのであるから、その点を被告が本訴において主張することは当然許されることというべく、原告の右主張は採用できない。

(二) 原告は、本件出願(分割出願)は原出願の第二項の発明のみからの分割とは認められないから、審決には判断の一部遺脱があると主張する。

しかしながら、当事者間に争いのない審決の理由の要点(請求原因三)から明らかなとおり、審決は、本件出願が原出願のどこから分割したものであるかについて判断をしている訳ではない。分割される発明は、特許請求の範囲に記載された発明のみに限られるものではなく、原出願の発明の詳細な説明又は図面記載の発明についても許される場合もあるのであるから、原告の指摘する(イ)、(ロ)、(ハ)の分類はそれ自体不適当である。

そして、分割出願の分割要件の審理においては、原出願の願書に最初に添付された明細書に、分割出願の発明が実質上記載されているか否かを検討し、それが記載されていれば、原出願と、特許請求の範囲において同一発明とならないか否かを検討すれば足りるのである。

したがつて、原告主張のように分割の態様を審理する必要はないのであり、審決は本件出願の発明が原出願の第二項の発明と同一発明であるから分割の要件を満たしていないと判断しているのであるから、審決の判断にいわゆる遺脱ないし誤りはなく、原告の右主張は理由がない。

以上のとおりで、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がない。

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